KITHO THE LAST FLY
「たかす雪まつり」レーザーショウ「キト伝説」
「分水嶺物語」
物語原稿
この原稿はコンテンツ制作にあたり、実際にスタッフに配布されたものと同じものです。
たかす雪まつりレーザーショウ2016 「キト伝説」最終章 「分水嶺物語」 ぶんすいれいものがたり 金子卓司 Kaneko Takuji 2016/1/7 v3 1. よっこらしょ。 みんな、元気かい?おばぁです。 今日は、みんなのよく知っている「分水嶺」のお話じゃよ。 ここ高鷲の分水嶺にはある古い言い伝えがあるのじゃ。 今も思い出すのさ。あの時の事を。 あれは飢饉続きじゃった村にキト様が降臨されて、やっとこさ平和が戻って、それからまただいぶ経ってからのことじゃ。 確か信じられないくらいたーんと雪が降った年じゃった。春もまだ遠いというのに、雪解け水が洪水のように押し寄せ、村中えらい騒ぎじゃった。 「こんなことは初めてじゃ」と、村人たちは神様を祀って、お祈りをしよった。 だが、一時(いっとき)は収まるのじゃが、次の年も、また次の年も、ますます洪水は勢いを増していったのじゃ。 そんなある夜、夢のお告げがあってな、それはキト様からじゃった。 「柚妃(ゆひ)えなよ、よく聞くがいい。村の洪水が止まないのは、山の神「阿云珠螺(あぬじゅら)」の怒りが収まらないからだ。以前、人間たちが山の動物をたくさん獲ったため、阿云珠螺は怒ったのだ。」 そう言うとキト様は、フッと消えてしまわれた。 今思えばそれはそれは不思議な夢じゃった。 2. 次の日、村の衆を集めてその夢のお告げの話をしたんじゃが、 「そんなこたぁねぇ。山の動物を獲ったことなんて一度もない。」 「おらなんか、鹿を助けたくらいだ。」 と、誰も聞く耳を持たなかった。 そんなある日、峻英(しゅんえい)と峻純(しゅんじゅん)という、きこりの兄妹(きょうだい)が山に木を切りに行った。二人は幼くして両親を亡くし、身を寄せる当てもなかったが、力を合わせ逞しく生きておった。 それは二人がいつものようにのんびりと木を切っている時じゃった。突然目の前に大きな大きな阿云珠螺が現れた! 峻英と峻純はびっくりしてその場に立ちすくんで動けなくなってしまった。 「人間共よ、山を荒らす人間共よ、お前たちの命を差し出せば、村を洪水から救ってやってもよいぞ。さもなくば永遠に村人は苦しむことになろう。」 二人は恐怖のあまり一目散に山を降りてきたそうじゃ。 家に戻った二人は、しばらく動転して口も聞けなかったが、暫くして 「村を救おう。おいらたちが我慢すればえぇことや。なぁ。峻純。」と兄が言った。 「うん、そうや。兄さん。村の役に立てるなら、それでええ。」 二人はひしと抱き合った。 意を決した兄妹は、ようやく探し当てたおばぁの家にやってきた。 「私たちでよければ、山の神様の所に行きます。」 「柚妃えな様、どうか連れていってください。」 二人とも泣いておった。 その真剣な眼差しは今もよう覚えとる。 それから3人でキト様に会うためにサヌザ岩に行った。 キト様は二人を一目見るなり、こう言われたんじゃ。 「柚妃えなよ、その兄妹の気持ちを無にしてはならない。私の翼の羽を一つづつ二人に与えよ。そして阿云珠螺の元に行き、呪文を唱えよ。」 3人は高い高い山をひたすら登っていった。そして阿云珠螺の住む嶺(みね)に着いた。 そこはあたり一面、水がごうごうと渦巻き、風も強かった。巨大な岩が雪解け水をせき止めていたのじゃ。 「阿云珠螺よ、我は柚妃えななるぞ!望み通り、二人を連れてきた。姿を見せよ!」 すると大きな大きな阿云珠螺が姿を現した! 3. 柚妃えなはキト様に言われた通り、樹里斗絵巻(きりとえまき)の呪文を唱え始めようとした。 ぬぺーっとした形相の阿云珠螺は、柚妃えなに向かって言った。 「よく来たな!柚妃えな。そやつらをこの山の生贄とする!」 そう言うやいなや、二人はまるで煙のようになって、岩に吸い込まれていったのじゃ! 「うわあーー!!」 「助けてー!!」 「何をするー!!」さすがのおばぁも不意を付かれた。無念じゃ。まばたきもできないくらいの間に、二人は岩に閉じ込められてしまったのじゃ。 もう助かるまい。うぬー。 すると、岩の中から叫び声が聞こえてきたではないか。 「おーい!峻純ー!」 「峻英!助けて!お兄さーん!!」 まだ二人は生きているのじゃ!キト様の羽の霊力が二人を守ったのじゃ! そこへキト様が一瞬でどこからともなく現れた。金色の翼をひと羽ばたきすると、大きな岩が真っ二つに割れ、二人に授けた羽がまるで矢のように飛び出してきた。そして二人が岩から出てきたのじゃ!生きて帰ってきたのじゃ! 二つの岩はそれぞれ逆の方向へとゴロンゴロンと転がり始め、溢れんばかりの水は後を追うように流れていった。洪水は収まったのじゃ! 阿云珠螺は一目散に逃げていった。 兄妹はお互いに抱き合い喜んだ。 「そこの兄妹よ、そなたたちの、人を思いやる尊い気持ちが、この村を救ったのだ。」 「ありがとうございます。」「ありがとうございます!!」 その言葉を聞く間もなく、キト様は大空へと舞い上がって、すぐに見えなくなった。 それからは洪水もなくなり、やがて長良川、荘川という二つの川ができた。 二つの川を生み出したその場所は、「分水嶺」と名づけられた。 今でもその岩のなごりが残っておるんじゃよ。 その後、峻英峻純兄妹は、きこりをやめて、畑を耕すようになった。 たくさんの作物ができて、村はますます豊かになっていった。 みんな、キト様のおかげじゃ。 ありがたいのう。めでたしめでたし。ほほほ。 |
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